twonaの日記

2007-10-17ムナムナダーと王子様・6

第8弓手訓練所


木々の吐息の中、マナ弓手ギルドが作った訓練所の中で訓練をしている。

第8は森とその中に廃屋となった二階建ての小屋を利用した敵性モンスターの拠点施設があると言う設定になっている。

ミッション目的は、敵を殲滅することのみ。

一人だけで行うミッションとしては最難関を誇る高難度ミッションとされている。


「…」

気配を緑の中に収めて辺りを伺う。

街中でのステルス能力シーフ程では無いが、野外でのそれはアーチャー達の方が高い。

マナの視界の先を標的人形の影がよぎる。

「っ」

矢を弓につがえる、が思い直して攻撃体勢を解く。

まずは敵の規模を確認してからだ、単独潜入任務なので敵に囲まれたら失敗になる。

標的人形は、高度な戦闘能力は持たないが、索敵能力と擬似攻撃を行う事により、軽いダメージを訓練者に付与し、戦闘評価をする。

だが軽いとは言え、蓄積すれば重傷にもなりかねない。


マナ、お前さんはなんでか知らないが、突っ込む癖があるんだよな)

ふと、トゥーナの声が脳裏に浮かぶ。

自分の保護者を自認しているその司祭は、戦闘訓練で怪我をしたマナを手当てしながら、怪我の原因に対してボヤく事が多かった。

それだけ、マナが戦闘訓練で怪我をし易かったと言う背景もある。

そして、その原因はマナが敵が密集していようと、強引に攻める特性がある所にある。

何故、自分に突撃癖(ユイが命名)があるか分らない。

ただ、敵と呼ばれる存在を目にすると、焦燥感に心がざわめき、それが嵐に成長すると自分が闘争心の塊になってしまい、敵の停止を見届けるまで安心が出来ない。


何度となく行った訓練で、かなりの確率で突撃癖を制御できるようになった。

しかし、今でも敵を滅ぼそうとする衝動は心に巣くったままなのは、マナ自身が自覚している。


「…」

考えながら敵をやり過ごし、敵の拠点を見下ろす高台に出る。

ザッと確認すると、敵は警戒要員は3。

周囲警戒は2、廃屋内には本隊として同数かそれ以上の数がいるだろう。

(警戒要員を素早く潰して、本隊をおびき寄せて一つずてつ潰すわ)

作戦を決め、一番外周に居る標的人形に狙いを定める。

「ふぁいあっ」

放たれた矢が標的人形の頭を貫く。

急所を射抜かれた標的人形はドサッと、その場に倒れ込む。

その様子にえも言えぬ充足感を覚える、だが、人を相手にする事に対しては自分は苦手だろうと言う確信がある。

この事は彼には伝えていない感覚でもある。

「…」

他の標的人形に気が付かれて居ないか気配を伺う。

だが、敵の動きに変化は無い。

「よしっ」

まずは、ファーストアタックは成功だ、次の矢を矢筒から抜き出しマナは行動を開始したのだった。



三時間後、廃屋の二階でマナを背にして座り込んで居た。

敵は全滅、だが自分はポーションを使い切り、重傷までは行かないが、かなり痛いと言う状況だ。

「あいたたた」

傷に包帯を巻いて顔をしかめる、訓練終了の狼煙を上げればすぐにトゥーナが飛んで来るだろうが、それを今はしたくない。

色々な事を考えたい思いが、傷の痛みを超えて自分に語りかけているのだ。

自分は何者なのか、トゥーナと一緒に住むようになってから半年(と、彼が教えてくれた時間概念ではそう言うらしい)の間に、それについて考える事が増えて来ている。

自分が自分である事を認識したのはいつだろうか?と自問する。

ユイに言わせると、それを自己認識の発生、と言うらしいが。

自分にそれが起きたのは半年前だった。

目の前を消えて行く、とても大切な誰かを見送った強烈な喪失感の中でだった。

それから、トゥーナに蘇生をしてもらって(と聞いた)、今の自分の意識を得た…はずだ。

その前後の事は、色々な事があり認識しきれて居ない。

古い記憶を掘り出してみようとすると、頭痛吐き気が自分を襲い、それを阻害する。

まるで何かが…もしくは何者か…自分の意識では歯が立たない存在邪魔をしているようだ。

そんな自分に、トゥーナ達が言葉を教え、様々な生きる術を覚えてくれた事で今に至っている。

その課程で彼自身、どのように知性を回復するかについて知恵を絞ったらしい。

前に大聖堂の大司祭様が苦笑混じりに、いつもはフラフラして騒ぎを起こしているトゥーナが、大聖堂や魔術ギルドにある知性に関する本を読みあさっていた事を、別な司祭と話して居たのを思い出す。

あの時の彼は必死だったと、当時を知る人達は言っていた。

そのおかげで自分には知性と言うものが回復されたのだろう。

しかし、知性が回復するにつれて、今の自分とは違う自分が居るように思えてならないのだ。

それは、彼が自分に何かを話す時に、その違うけど近い誰かに話し掛けているようだと感じてから、その疑念に近い感情に自分は言い知れない焦燥感と孤独感を覚えている。

それが、自分が過去を思い出せないと言う事に気が付いてから、その事に対しては人としての不完全さと言うマイナス感情を呼び出してしまっている。


(だけど、自分はなんでいろんな〝声″が聞こえるのだろう?)

この疑問は、目覚めてから少し経った後に、何かが上げる声を聞いてからだ。

そして、トゥーナが被っているムナック帽子と彼が会話をしている事に気が付いてからだ。

詠香、と彼が呼んでいるらしい彼女はムナック帽子に宿っている存在のようだ。

そして、その名前と声は自分の記憶巣を強烈に刺激するものだった。

多分、彼女の事を自分は知っていた、だけど、何も思い出せない。

その手に届きそうだけど届かない、その感覚が自分の心を掻き乱す。

「彼と詠香ちゃんはどんな関係なのかな?」

様子からは、必ずしも親しげでは無いようだ。

言い争う感じもしたり、だが、どこかでお互いを信頼をしている風ではある。

そして、詠香が自分に対して服従を誓っているらしい事が分かっている。

〝姫様″と言っているようだ。

「姫様…」

一般的には、女の子が憧れる存在だろう。

大聖堂でアコライトさん達と色々なお手伝いをしていた時に、フェイヨン王家の姫であるクシナダ姫を見たアコライト少女達が、興奮し憧憬を宿した表情で彼女を見て居たのを思い出す。

だが、その〝姫様″と言う言葉に自分が感じたのは、漠とした不安だった。

そしてその不安の元を探ろうとすると、拒否反応が起きてそれも叶わなくなるのだ。

「ふうっ」

熱い吐息を吐き出す、怪我をしているため、体内の炎症が起きている為に発熱しているようだ。

「私は、誰なのかな?」

そう呟くと、不意に悪寒が走り首をすくめる。

自分が今の自分では無いのではないかと言う所までに想像が及んでしまったのだ。

不安な事は他にもある。

詠香の声が聞こえる事に加えて、それ以外の声が聞こえる事だ。

フェイヨンでも、いくつかの声を聞いたし、トゥーナと一緒に行った冒険で出会った大きな熊さんの声も聞こえたのだ。

そして、その全てが自分に向けて助けを求めていたと言う事が自分を不安がらせているのだろう。

自分は、そんな力は無いのに…今の自分は自分で自分を守る事しか出来ない、ただの少女に過ぎない。

誰かを救う事等できるだろうか?

「だけど、あの熊さんありがとうって言ってた」

トゥーナと、そして確かに自分に感謝していた熊の事を思い出す。

自分は、何かしたつもりは無い。

ムナムナダーと言う、自分を守るために成る最強力とそのお友達が傷付きながらも熊さんを救った。

自分はそれを見て居たに過ぎない。

だけど…

記憶が薄れていた、自分が知らない自分が居たの?」

あの熊さん慟哭を聞いた後、記憶が薄れていた事は確かだった。

そして、気がついた時に前に居た熊さんが言った感謝言葉…。

「貴女が俺の言葉を聞いてくれて助かった。感謝する」

と言う言葉に戸惑ったのは確かだ。

何故、何故、何故…っ!

近頃の自分の思考はこればかりだ。

自分が何故ここまで思い出さそうとしているのか、わからずに思考が彷徨っている。