twonaの日記

2007-06-12ムナムナダーと熊・10

ラッケン-夜その2-


(今の所は異常無しだな)

闇に隠れてケドゥはトゥーナ達が泊まっている宿の部屋を監視している。

距離は約70m、あの対象が所持している〝古代遺物(アーティファクト)″の機能は分らないがこの距離の接近が限界だろう。

じわっと接近しようとすると、チリリリ…と耳鳴りの様な雑音が聞こえる。

足に埋め込んでいる古代遺物〝スレイル″からの警戒音だ。

〝スレイル″は隠密行動に長けた古代遺物である。

敵の索敵能力を掻い潜るステルス機能を始め、様々な能力がある。

ここまで高機能の古代遺物は、簡単に配備される物では無い。

自分にスレイルが配備された時の事を思い出して、皮肉な笑みを浮かべる。

そして、その高性能な古代遺物を持つ者として、それが必要な程の相手と関わり合う事になっている自分の境遇には複雑なモノを感じる。

レーダービジョン・オン)

対象の探査範囲を受動的に感知し、視覚的に表示する機能を作動させる。

(やっぱりか…。ランダム変数を利用した探査範囲を敷いているな…)

対象の探査レーダーの範囲が目前にあるのがケドゥの視覚に投影される。

まるで、霧のように不定形にその範囲が伸び縮みしているのが分る。

ランダム変数を利用した探査方式は、その名の通りランダムに探査範囲を設定する方式で、侵入者側の選択肢を狭める事が出来る方式だ。

だが、探査リソースには限界があるために核となる探査範囲が存在するため、離れていれば問題が無い。

ケドゥは既に対象の三層の探査範囲のうち、二層まで侵入が成功している。

だが、この先はランダム変数の警戒システムが立ち塞がるため、厄介だ…と言うより接近は不可能だ。

ランダム変数警戒モードの核と言える最終警戒ラインと呼ばれるラインは、かなりの警戒レベルの機能が働いている、例えスレイルをもってしても対象に感知される確率は上昇する。

(しかし、嫌な距離だよな)

この距離では、対象に接近する事を始め、監視するのも困難だ。

射撃を行うにしてもケドゥはガンスリンガーでは無い。

それに、建物の中に居る対象を正確に撃ち抜くには相当の技量と準備が必要だ。

早い話が打つ手が無いと言う事だ。

それでも、ケドゥは忍の神に感謝する。

もし、対象の殲滅が指令だったら、死を覚悟しなくてはいけなかっただろう。

根拠は無い、ただの勘だ。

だから油断はしない。

そう思いながら、ケドゥは更に闇に溶けて行ったのだった。


―ラッケン・朝―


「んっと…」

ラムポが軽い呻き声を上げてベッドから身を起こす。

時刻は午前六時を少し過ぎたあたり、と柱時計の針が示している。

仕入れにはやや遅めだが、旅先だから問題は無い。

「おーい、ししょー起きろー」

旅装を整える前に、二人が寝ている部屋のドアをノックする。

「ふぁーい」

間の抜けた声がして、ゴソゴソと起きる気配がする。

「おはよう」

全身にムナック帽がプリントされたパジャマを着、青髪が大爆発しているトゥーナが顔を出す。

「…凄いな…」

「ああ、夢でソルジャースケルトンの群とタッチアンドゴーで競っていたんだ…」

要するに、アクティブな夢を見たらしい。

マナは、と見ると

「にゅー?」

全身にニンジンプリントされたパジャマを着て、子猫の様な声を上げて寝ぼけ眼をこすっている所だった。

「調子はどうだい?」

取りあえず、格好に関しては色々とスルーをする。

昨日の村人の蘇生を行った事に関して聞いている。

蘇生スキルであるリザレクション治癒スキルヒールを多用したため、疲労が蓄積していないか気になったのだ。

「ああ、良く眠れたから平気さ」

コキコキと首を鳴らして答える。

「それは良かった。師匠、そろそろ行こう。準備よろしく」

「ああ、了解。朝飯食べてから出よう」

「あいよ、それじゃあ食堂で」

そう言って三人は旅装を整えに部屋に戻ったのだった。


「あさごはーん!」

「いただきます」

三人は宿の食堂で朝食を摂る。

昨日のサベージベベのカツの残りに卵とタマネギ、出汁を入れてとじたベベ丼だが、素材がいいので旨い。

また、脂も抜けているのでサッパリとしている。

そうして食べている三人の側に宿の主人が近付いて来た。

ちらり、と視線を向け、わからないように警戒するトゥーナ。

こういった事は、身に染み付いたものなので自然とやってしまう。

「良くおやすみになりましたかな?」

にっこりと笑いかけながら宿の主人であるヨネが挨拶をしてくる。

「ああ、ヨネさん。お陰様で」

顔馴染みだと言うラムポが答える。

お客様方はラミ渓谷に行くので?」

「ええ、昨日言った通りですよ」

正気ですか?今、うちの村の若いのを殺めた熊がうろついているって話じゃありませんか」

心配半分、興味半分といった風で聞いて来る。

「遭遇するかわからないし。ほら、危険を冒さないと儲けられないって言うしね」

「ははは、違い無い」

笑い声を上げるヨネ。

「あ、ご主人。昨日、黄泉から戻した人達の様子はどうかな?」

ご飯の塊を飲み下してトゥーナが話かける。

「ああ!司祭様、昨日はお世話になりました。おかげで皆、ピンピンしていますよ」

「なら良かった。すみませんね、宿代をタダにしてもらって」

「いえいえ、命を救ってもらった事に比べれば安いものです」

「もし、何かあったら言って下さい。だが、今はワシらは急いでおるのですぐに応じる事は出来ないが…」

それはヨネを始め村人は了解しているだろう、しかし、それが分かってもなお、危険な状況だったのだ。

「ええ、分かっております」

「危なそうな人には聖水をかけてもらいたいのですが…。備蓄はありますか?」

「ええ、ケンジ様が置いて下さりましたから」

「なら心配要らないようですね。看病をよろしく頼みます」

「分かりました」

「ああ、そうだ。ヨネさん、今仕入れられる精米の事だけど、相場はどのくらいかな?」ほとんど食べ終えたラムポが聞いている。

「ええと…」

商売の話をし始めた二人を見ながら、トゥーナは朝食を再開したのだった。