twonaの日記

2007-06-07ムナムナダーと熊・9

-ラッケン・夜-

初めての旅先の宿泊で嬉しそうに騒いで居たマナを寝かしつけ、トゥーナも床につく。

被りっ放しのムナック帽子を枕元に置き、目を閉じずに天井を見ながら思念で詠香に語りかける。

話題は言うまでも無く、マナの感応能力の事だ。

《さっきの感応能力の話だが、なんだそれは?》

少し間があって詠香が答える。

(私達の時代に見られた能力の一つよ)

ちなみにトゥーナと詠香は出会ってから半年の間にキツい修練を経て、ある程度の距離の範囲内であればムナック帽と触れ合っていなくても話し合う事ができる様になっている。

修練をした理由は、四六時中ムナック帽を被っていられないからと言う理由だったりするが、何かムナック帽がトゥーナから離れた場合に有効だろうと言う事に後から気が付いた。

(私達の時代は、高度な機械魔法存在する文明って言うのは説明したわよね?)

《ああ》

(その中で、人を改造する技術があったのよ。その目的は、表向きは先天的な障害や病気による日常生活に障を持つ人への補助ね。軍事転用に関しては私は知らなかったけど…)

王族の家で働くとはいえ、詠香は一般人であった。

軍事的な事柄に関しては完全に対岸の火事だったろう。

《何故、軍事なんかに転用するんだ?》

(様々な高度の兵器、それを最大限に使うには、使用者の能力を上げるのも有効な手段とされていたのよ。

その研究の中で生み出された様々な能力のうちの一つが感応能力、偵察部隊で使われた…とあるけど、あまり有効な能力とは認識されて無かったみたいよ)

《何故だ?》

(敵の精神発動を読み取って、敵を感知するのがその能力だけど、それはレーダーを使えばいいし。ステルス能力に長けた〝スレイルシリーズの相手と戦う時に使うくらいかな)

《つまり、ある程度の有効性があるが、それの代わりとなる技術があったから重要視されなかったと言うわけか》

(そう言う事ね、そして能力の発現の仕方に二通りあって、人工的なやり方で後天的に発現したものは〝アイリス″完全に先天的に発現したものは〝ケイオス″と呼ばれている…)

《それじゃあ、マナケイオスか?》

(…多分、そうなるわね…)

考え込んでから詠香が答える。

(ただ、姫様にはその兆候も無かったし、改造手術をした事も無いから不思議なのよ。)《改造手術って、王族には一般的だったんかい》

その究極形と見える機械人形の姿を思い出して聞く。

いくら強くなるとしても、あんなのになるのは勘弁だ。

(そうでは無いわよ、ただなんらかの障害があった場合は最先端の技術が使われたらしいけど。さっき言ったとおり、私達の時代で改造を施したのは軍人が多かったはずよ)

《ふむ、軍事転用か》

貴方が、私達の時代をどう思っているのかわからないけれどもさ。いかに技術が発達しても、社会の歪みって言うのは無くなって居なかったのよ。最初は様々な障害や病気による身体機能の欠損を補うはずの技術が、最後には人を殺める機械人形を生み出してしまったしね)

《とは言え、それがワシを救ってくれたわけだ。要は使い方さ、どんな力もな》

リザレクションにしても、悪用するの司祭がいるのも事実だ、そして、古代技術を悪用している奴を知ってしまった。

(そうね…そんな事言ったのは、貴方ぐらいよ)

マナが感応能力を持ったまま、どうなるかは見極めるしか無い…かな?マナの一番の侍女のお前さんの見立てじゃあどうだ?》

《姫様は、元々感受性が高い方であったのは事実よ。それ故、他人の事でも自分の事に感じて、特に不幸な事をそうする事があったわね。その時には、私達が励ましたりして大変だったわ》

ため息混じりの言葉が脳裏に響く。

(あはは、そりゃマナらしい。と、言う事は、何らかの原因で能力が開花したわけか)

《そう言う事ね。姫様の能力が発現した今、貴方はどうしたいの?》

(見極めるしか無いが…。そうだな、今回の事はマナ希望に沿ってみるかな)

熊を助ける方向で行こうと言うのだ。

《本気なの?手加減出来る相手かどうか微妙よ?》

(かもしれんが、ワシはマナの能力が開花したのは意味がある事だと思う。そっちを信じてみるさ)

困難だらけな事になりそうのは自覚している、普通に戦うとしてもキツい敵だろう。

だが、過去を奪われたマナが意志を持って言った事だ、なるべくなら叶えてやりたい。

《…ありがとうね》

いつもらしくない、しおらしい口調で詠香が礼を言う。

(なんだ?いきなり)

《なんでもないわ。明日も早いんでしょ?もう寝たら?》

(ああ、そうさせてもらう。目覚しはラムポさんが居るから平気だからお前さんも寝坊してもいいぜ)

からかうような口調でトゥーナが言ってムナック帽子に視線を向ける。

馬鹿!私がいつも寝ないで番をしてるって分かってるでしょうが!》

ガツン、と何かが頭を直撃する衝撃を感じ、顔をしかめる。

詠香が物を投げてぶつけた思念を送ったのだろう。

(ういててて…それじゃ、おやすみ)

ほどなく、トゥーナは寝入ったようだ、その安らかな寝息が聞こえてくる。

それを確認して、

(さてと、どうするかしら?)

ムナック帽に宿る詠香はこれからの事への思案を巡らせる。

これは毎日の習慣にしている一種の儀式でもある。

亡霊とされている詠香は、肉体のある人間とは違い人間のような睡眠は必要無い。

取得したデータインプット、それのフィードバック、その作業を終了後のメモリーのクリアと言う動作は一瞬で済んでしまう。

だが、トゥーナにはああ言ったが、詠香には肉体があった時のように全てを意識外に解き放ち〝睡眠″が必要になる時もあり、周囲警戒機能を作動させたまま意識が途切れる事もある。

それが今夜らしい、まるで生きて居た時に侍女部屋で眠る時のように眠気が襲って来る。


(まるで人間…みたいね)

もはや、肉体を失った存在には不必要なのに何故、と思う。

(ムナック帽に蓄えられた膨大なデータバンクにも答えがないのよね)

詠香が宿るムナック帽…それには様々なデータが納められており、詠香が目覚めさせられてから今までに、そのデータの分析を行なって来た。

それでも、未だにムナック帽の全てをわかったわけでは無い。

元々は侍女である詠香には、情報分析のスキルなどは無く、覚醒されてからはムナック帽の機能を知るために必死にそのスキルを取得した。

それでわかった事がいくつかある。

ムナック帽のシステムは、自分達の時代では〝シュバルツシルト″と呼ばれて居た最新鋭の〝何か″だったと言う事、だが一体〝何を″〝どのように″やるものであるかが不明だ。

自分が姫様を守るために、トゥーナをムナムナダーへ変身させて敵と戦う事すら何かの付け足しでしかないように思える。

また、戦闘能力にしてもどう言った事を目的にしているかも分らない。

今までの戦闘記録からすると〝万能型″と言えるだろう。

万能型と言うのは、便利な言い方だ、突出した能力を持たない代わりに様々な状況に対応出来る。

その反面、何かに突出した能力が一定以上のレベルにある相手の場合には危機に陥り易いと言う欠点がある。


さらに、肝心な事に何故自分がムナック帽を制御する〝亡霊″に必要だったかについても分らない。

例えればニナイル卿や侍女長のカミナ様でも良かったのでは無いか?

(わからないだらけ、ね)

諦観まじりにクスリ、と笑う。

検索をすると、様々な詠香のようになった〝亡霊″に対しての肉体感覚を感じさせる重要性を説いている項目にぶつかる。

だが、読み進めていても、その決定的な結論曖昧にして先延ばしにしている部分だらけだ。

むしろ、その部分に関しては禁忌であるかのように封印されているかのような気がしてくる。

(ん…)

睡魔がまた襲って来た、今度のは抵抗が無駄なくらいに強い。

(ふう…寝るかな)

周囲警戒システムを最大出力にする。

もし、これに敵性存在が感知されれば、全てのタスクの優先順位が書き替えられ、最優先で詠香が覚醒する。

(ニナイル卿、貴方は私に何をさせたかったのですか?)

その呟きの反響を聞く前に、詠香の意識は闇に落ちて行ったのだった。